開講予定の講義
この講義では、看護学を学問として確立させたと言われているフロレンス・ナイチンゲールが著した『看護覚え書―看護であること看護でないこと―(第8版)』(現代社)を取り上げます。
ナイチンゲールに対して皆さんは「献身的に尽くす看護師」や「白衣の天使」といったイメージをお持ちではないでしょうか。しかしナイチンゲールは看護師であったと同時に、統計学者であり、公衆衛生学者であり、近代型病院の発案者でもあったことはあまり知られていません。『看護覚え書』は1859年に出版され、現在も看護師養成課程でも教科書として使用されています。医療の進歩が著しい現代においても読み継がれている理由として、ナイチンゲールの看護論が現代の医療でも極めて有用なものであるからに他なりません。
日本における看護師の業務は、保健師助産師看護師法で2つ定められています。診療の補助と療養上の世話です。皆さんが看護師の仕事としてイメージされるような採血や点滴は診療の補助に該当し、看護師が担う役割のごく一部に過ぎません。ナイチンゲールの『看護覚え書』では、特に療養上の世話について述べられています。
『看護覚え書』の内容は現在も色褪せておらず、現在の我々の生活にも直結しているものです。ナイチンゲールの書籍を通して看護学について学び、「看護とは何か?」について考えてみませんか?皆さんの参加をお待ちしております!
※講義期間の都合上、全ての章を読むことはできませんので、いくつかの章をピックアップして読み進めます。原著は複数回改訂されており、また版によって補章や付録が含まれていない可能性があります。今回は現代社から出版されている第7版以降を前提として講義を進めていくことをご了承ください。
第1回講義:2025年09月04日(木):20:00 - 21:30
初回はイントロダクションとして、ナイチンゲールの生涯を概説します。その上で本書の概要を説明します。今後読み進めていく内容の理解をより深める目的で、序章を丁寧に読み進めていきます。ここではナイチンゲールが病気、病気、看護をどのように捉えていたか、その基本的な哲学が記されています。
第2回講義:2025年09月11日(木):20:00 - 21:30
第2回は第1章「換気と保温」を扱います。病院や建物における換気と保温は、ナイチンゲールが実践して確立してきた看護として最も代表的なものです。我々の目前に迫っている感染症の脅威についても解説した上で、ナイチンゲールの看護実践が現代にも息づいている姿を学びます。
第3回講義:2025年09月18日(木):20:00 - 21:30
第3回は第4章「物音」を扱います。病院における看護師の存在は、患者にとって大きな環境でもあります。環境の一部たる看護師が立てる声や物音が患者に与える影響について解説します。加えて、現代の医療現場においても「物音」が切実な問題であり、ナイチンゲールが我々に残した課題であることも学びます。
第4回講義:2025年09月25日(木):20:00 - 21:30
第4回は第13章「病人の観察」を扱います。「看」という文字には看る(みる)という使い方があるように、看護において観察は切っても切り離せないものです。ナイチンゲールが観察をとりわけ重要視した理由、そして何故看護師が観察をするのかを詳しく解説することで、看護師が果たす役割を考察します。
第5回講義:2025年10月02日(木):20:00 - 21:30
最終回は第14章「おわりに」と補章の一部である「1看護師とは何か」を扱います。ここでは看護師の主要な役割である療養上の世話について述べられています。ナイチンゲールが考える看護師の像について学びます。
札幌市立大学で修士号(看護学)を取得し、現在は東京大学で臨床疫学の研究をしている今井けいと申します。The Five Booksで医療・看護関連の書籍はこれまで取り扱われなかったと伺いました。本講義では看護学を学問として確立する契機となった『看護覚え書―看護であること看護でないこと―』を取り扱います。
私は学士(看護学)を取得した後に医療機関で看護師として従事した経験を持ち、COVID-19病棟の立ち上げと運営に従事した経験を有しています。COVID-19病棟を立ち上げるに当たって手に取った書籍が『看護覚え書』でした。出版されてから150年以上が経過している現代でも色褪せることなく看護学の基盤に根付いているナイチンゲールの理論に感銘を受けました。
ナイチンゲールは「白衣の天使」と表現されることもあり、献身的に看護をする姿を想像されるかもしれません。しかし、ナイチンゲールは統計学者として、そして近代型病院の発案者として看護学に貢献したことはあまり知られていません。看護であることとは何か、一緒に学んでいければと考えております。