開講中の講義
この講義は、2025年3月に実施された同名のライブ講義をオンデマンド化したものです。
本講義では、20世紀を代表するドイツの精神病理学者であり、哲学者カール・ヤスパース(1883-1969)の著書『哲学入門』を読んでいきます。この著書は、ヤスパースが1949年秋にスイスのバーゼル放送局で行った全12回のラジオ講演をもとに、翌1950年に刊行されたものです。
この『哲学入門』を手に取り、読んだ方はこんなことを思ったかもしれません。
「『哲学入門』と書いてあるから、哲学の入門書だと思って読んでみたら、「ヤスパース哲学」の入門書やないかい!」
私もその一人でした(笑)。大学1年生の頃に、英語で哲学書を講読するゼミの中で、この『哲学入門』を読んだのですが、同じことを思いました。その時はなんだか騙された気分になったものです。たしかに本書は、ヤスパースの考える哲学、いわゆる「実存哲学」をベースに論が展開されるものですので、いわゆる一般的な哲学の入門書・概説書には当たらないかもしれません。
ですが、皆さまも一度は「自分にとって人生って何なんだろう?」、「自分っていったい何者なんだろう?」という疑問を抱いたりすることはないでしょうか?このように、自分自身や自分の人生を問いに附し、その答えを求めて思索を行うことは、誰にでもあることではないかと思います。そういった方に、この『哲学入門』はオススメです。なぜなら、本書の中でヤスパースの説く哲学、いわゆる実存哲学とは、今ここに生きている「この私」自身が、自分の人生を見つめ直しながら、自分自身の思索を深めていく営みを意味するのですが、その手引きを行おうとする著作が、この『哲学入門』だからです。ですので、改めて申し上げますと、哲学あるいは哲学史の概説を行うには不向きな本なのかもしれません。ですが、それでも「自分にとって人生って何なんだろう?」、「自分っていったい何者なんだろう?」などの問いを抱いている方にとって、その答えのヒントを指し示してくれるものが、この『哲学入門』です。ぜひ本講義に参加していただけたらと思います。
またさきほど、この『哲学入門』は「ヤスパース哲学」の入門書であるとも述べました。それもそのはず、ヤスパースの哲学は難解なものが多いですが、そのエッセンスが簡潔にまとめられたものが本書『哲学入門』です。また皆さまにとって身近で手に取りやすいヤスパースの著書といえば、この『哲学入門』ということでもあります。そのため、『哲学入門』はヤスパース哲学を学ぶための導入としてふさわしい著書と言えることから、本講義で扱うこととなりました。
ですが、この『哲学入門』を読み進める中で、こんなことを思ったりする方もきっといらっしゃるかと思います。
「第一講・第二講の内容もわかったぞ!でも、その次の第三講の「包括者」がよく分からない...」
同じく私もその一人でした(笑)。大学1年生のころ、さきほどのゼミにて、「邦訳でいいので、何講か自分で選んで読んで、内容を簡潔にまとめよ」という夏休みのレポート課題が出された際に、再び『哲学入門』を手に取って読んでいたのですが、第三講のところはいくら読んでもてんでよくわかりませんでした。
なぜそうなるのかと言えば、この『哲学入門』は、位置づけとしては後期ヤスパース哲学の著作にあたるものだからです。まず、前期ヤスパース哲学についていえば、その主著である『哲学』の内容をもとに、特に「実存」についての内容を強調するのですが、それに対して、後期ヤスパース哲学は、前期ヤスパース哲学の内容を受け継ぎつつ、実存よりも、他者との交わりへと衝迫する「理性」についての内容を強調する記述が増えていきます。つまり、前期ヤスパース哲学の内容がある程度わからないと、後期ヤスパース哲学の著書に位置付けられる『哲学入門』もわからないということを意味します。
そのようなことではございますが、本講義では、前期ヤスパース哲学の内容も振り返りつつ、しっかりと『哲学入門』の解説を行っていきます。この『哲学入門』が初見の方でもわかりやすい解説を心がけて講義を行っていきますので、安心して本講義に参加していただければと思います。
以上となりますが、このようにヤスパースの『哲学入門』を読んで、挫折してきた方が数多くいらっしゃるのではないかと思います。哲学書に挫折はつきものです。ですが、その挫折こそ再び「哲学すること」のきっかけとなります。途中で挫折した方も、初見の方も楽しめるような講義を行っていきたいと思います。
使用するテキストについて
本講義では、主に草薙正夫訳『哲学入門』(新潮文庫)を用いる予定ですが、林田新二訳『新版 哲学入門』(リベルタス学術叢書9)を読んでいただいても構いません。
草薙訳は、実存主義哲学がまだ隆盛を誇っていた時代に翻訳されていたため、実存的なニュアンスがありありと残る訳になっておりますが、少し文語的な訳なのでその点読みづらいという欠点があります。
対して林田訳の方は、口語的に翻訳されている点では読みやすいものの、ヤスパース研究者である林田先生が訳にこだわって翻訳したということもあり、研究者目線では正確に訳されているものの、その分一般の方々にとってはかえってわかりづらい部分があったりするという欠点があります。
本講義は、適宜両翻訳を用いていきますので、両翻訳の訳出の違いなども含めて、本講義を楽しんでいただけたらと思います。
第1回講義:オンデマンド講義
イントロダクションとして、「実存」という用語についての解説、ならびに実存主義哲学の概略について講義していきます。
第2回講義:オンデマンド講義
まずは、「ヤスパース略年譜」(林田新二訳『新版 哲学入門』在中)を用いて、ヤスパースの来歴について語りながら、ヤスパースの語る「交わり」と「超越者との連繋」の違いについて講義していきます。その後、『哲学入門』第一講「哲学とは何ぞや」p.7~ p.21(草薙訳)を読んでいきます。第一講では「ヤスパースの考える哲学とは何か?」というテーマで、講義していきます。
第3回講義:オンデマンド講義
『哲学入門』第二講「哲学の根源」p.22~ p.27(草薙訳)を読んでいきます。第二講では「人が哲学し始めるきっかけとなる3つの根源(驚き・懐疑・限界状況)とは何か?」が主題となっております。その中でも特にヤスパース哲学の中でも基本概念とされる、死・苦・闘争・負い目の限界状況について詳しく解説していきます。
第4回講義:オンデマンド講義
『哲学入門』第二講「哲学の根源」の続きp.27~ p.37(草薙訳)を読んでいきます。第4回の講義では、第二講内に登場する「一切の世界存在の不確かさ」という表現に着目し、その表現をヤスパース著『世界観の心理学』や『哲学』の中で語られる言説を用いつつ読み解いていきます。
第5回講義:オンデマンド講義
『哲学入門』第三講「包括者」 p.38~ p.54 (草薙訳)を読んでいきます。第三講では「包括者das Umgreifende」という用語が出てきます。「包括者」は、後期ヤスパース哲学の著作中に登場する用語ですので、後期ヤスパース哲学の著作も用いつつ、その用語の解説を中心に講義していきます。
この講義は、2025年3月に実施された同名のライブ講義をオンデマンド化したものになりますので、読書グループは開催されません。
皆さまはじめまして。中村元紀と申します。
博士(文学)を取得後、普段は高校にて、「公共」や「倫理」などの社会科科目を教えております。また、東洋大学東洋学研究所において、ヤスパース・キルケゴール・親鸞の比較思想研究をテーマに日夜研究にいそしんでおります。
「あるべき自分自身って何?」、「自分らしく生きるってどういうこと?」
そんなことに疑問を持った高校生の頃の私は、その答えを見つけ出したいと思い、大学の哲学科に進学致しました。その後大学や大学院にて、デンマークの思想家キルケゴールや、ドイツの哲学者ヤスパースの著作と出会いました。現在私は、彼らの著作を読むことを通じて、私自身の人生と向き合いながらも、「あるべき自分自身って何?」、「自分らしく生きるってどういうこと?」という問いに対する自分なりの答えを見出そうと日々研鑽に努めております。
この「あるべき自分自身って何?」、「自分らしく生きるってどういうこと?」などの問いは、誰もがみな、自分の人生を歩む中で、一度は心のうちに去来するものではないかと思います。それらの問いに対する答えのヒントを授けてくれるのが、キルケゴールやヤスパースなどの実存主義哲学者たちの思想である、と私は考えております。
哲学書は難解であり、それゆえに読むのをあきらめてしまう方もきっといらっしゃるかと存じます。ですが、哲学書を読もうと志した時点で、あなたも立派な哲学者です。
私自身もまだまだ研鑽を積まなくてはいけない身ではありますが、私との講義を介して、哲学者である皆様の一助になれたなら幸いに存じます。