開講予定の講義

心は泣いたり笑ったり

『心は泣いたり笑ったり』

マリーズ・コンデ/くぼた のぞみ 著

26年3月29日(日) ~ 26年4月26日(日)

毎週日曜日 20:00 - 21:30

終了後2年視聴可能

全5回講義

参加料金:8500円

最少開講人数:5名

利用規約
講義概要

 この講義では、ノーベル文学賞の発表が見送られた2018年に、代替賞として創設されたニュー・アカデミー文学賞を受賞したフランス語作家マリーズ・コンデ(1934-2024)の自伝的作品、『心は泣いたり笑ったり――マリーズ・コンデの少女時代』(原題:Le Cœur à rire et à pleurer, contes vrais de mon enfance, 1999, 以下『心は泣いたり笑ったり』と略記)を読みます。


 マリーズ・コンデは、カリブ海に浮かぶフランス領グアドループ島出身の黒人女性作家です。フランスの高校・大学で学び、ガーナやセネガルなどのアフリカ諸国でフランス語を教えたのちに、アメリカの大学でも教鞭を取った彼女は、特定の場所に対する強い帰属意識を持っていたわけではありません。しかし一方で、出身地グアドループをはじめとしたカリブ海世界が、作家にとって創作の源泉となる極めて重要な場所だったこともまた無視できない事実でしょう。そして、その背景には、今なおこの地域が影響を受け続けている、かつての奴隷制度と植民地支配に対するコンデの鋭い批判があるのです。


 1976年に作家デビューを果たしたコンデは、当初アフリカを題材に小説を書いていましたが、『わたしはティチューバ セイラムの黒人魔女』(1986)以降、頻繁にカリブ海世界を作品の舞台に選んでいます。今回取り上げる『心は泣いたり笑ったり』の主な舞台も、彼女の出身地であるグアドループです。自身の少女時代を回想する本作では、幼少期からパリで大学生活を送るころまでの日常が、ユーモラスに描かれていきます。中でも注目すべきは、一見すると些細な出来事の描写から、西洋諸国と旧植民地、とりわけフランスとグアドループとの間に現在も残る構造的な差別や疎外状況が浮き彫りになる点でしょう。そのことは、例えばコンデの母親の姿からも見て取れます。教師でエリート意識が強い母は、同郷人の多くが話すクレオール語(現地語とフランス語の混成言語)を見下し、「正しい」フランス語を話すよう子どもを教育していました。しかし、この事実こそ、植民地の黒人が旧宗主国の影響なしに生きられない疎外状況を示しています。純粋な子どもの視点から、コンデはこうした社会的現実を明らかにしていくのです。


 『心は泣いたり笑ったり』は、一部のクレオール語表現を除き、おおむね平易な言葉で書かれています。そのため、文意を理解するだけであれば必ずしも難解とは言えないかもしれません。しかし、おそらく多くの日本の読者にとって、フランス語圏カリブ海世界は馴染みが薄い地域なのではないでしょうか。コンデの作品を読むには、作家自身の人生とカリブ海という地域の歴史の双方を学ぶことが不可欠であり、これらの情報を提供することで、作品の魅力をより深く味わっていただけるはずです。


 そこで、本講義では、「歴史」、「言語」、「疎外」といったカリブ海の文学における重要テーマについてみなさまと考えつつ、マリーズ・コンデの『心は泣いたり笑ったり』をゆっくりと読んでいきます。コンデの作品には、植民地支配という暗い過去の影響が根底に流れているにもかかわらず、時折笑いに誘われるような独特な魅力があります。そうした作品の面白さを、みなさまと共有できれば嬉しく思います。


 なお、この講義では、マリーズ・コンデ、くぼたのぞみ(訳)、『心は泣いたり笑ったり』、白水Uブックス、2024年を使用します。


各講義の概要

第1回講義:2026年03月29日(日):20:00 - 21:30

 初回は、『心は泣いたり笑ったり』を読む前提となる作家マリーズ・コンデの人生や作品テーマについて解説します。また、本作品を理解するのに必要なカリブ海世界の歴史と文学について、フランス語圏文学の文脈から紹介し、考えていきます。植民地支配というコンテクストからどのような文学がフランス語圏カリブ海世界で紡ぎ出されたのかに着目することで、『心は泣いたり笑ったり』を読む準備を整えます。

第2回講義:2026年04月05日(日):20:00 - 21:30

 冒頭から54頁までを読みます。作家コンデ自身と重なる語り手「私」の誕生や小学校時代の友人とのエピソードなどが語られる箇所です。ここでは、些細なエピソードから「階級」や「疎外」といった重要なテーマが浮かび上がっていきます。特に、エリート意識の強い語り手の母親によるフランス文化崇拝が悲哀と皮肉とともに語られる冒頭には、フランス語圏カリブ海における「疎外」という問題が明確に表れており、読む際に注目すべきポイントと言えるでしょう。

第3回講義:2026年04月12日(日):20:00 - 21:30

 55頁から110頁までを読みます。ここでは、親しい人の死や初恋、ガールスカウトの思い出などが語られますが、特に印象的なのは、幼少時代に経験した強烈な差別体験と語り手の母親の人生についての描写でしょう。この箇所でもやはり「歴史」と「階級」の問題が主題化されていますが、特に母の人生に触れる場面は、コンデの「家族史」というミクロな文脈を理解する意味でも重要です。

第4回講義:2026年04月19日(日):20:00 - 21:30

 111頁から158頁までを読みます。この箇所では、人種間対立や「言語」の問題が扱われています。注目すべきは、白人と黒人の人種間対立のみならず、黒人たちの間にも「言語」や「階級」によって差異が生じている現実でしょう。そのことは、パリの高校でのエピソードからも明らかです。教師から故郷の本について紹介してほしいと言われた語り手は、フランス語圏カリブ海の文学について調べます。そこで語り手は、本の中に見られる抑圧された黒人たちが、自身とは無縁の存在と感じるのです。この場面における語り手の気づきは、その後のコンデの思想を理解する上でも、非常に大事な点と言えます。

第5回講義:2026年04月26日(日):20:00 - 21:30

 159頁から結末までを読みます。この箇所では、ティーンエージャーとなった語り手が自由を求め、ついに一人でグアドループからパリへと移住します。前回までに扱った「疎外」「差別」「階級」といったテーマが反復されつつも、ここでは新たに「孤独」という主題が登場します。「孤独」は最終的に彼女のもとを離れるのですが……。この点につきましては、ぜひ最後まで作品を読み通していただければと思います。

講師からのメッセージ

 こんにちは。講師の山内瑛生(やまうちえいじ)と申します。昨年、東京大学大学院で博士号(文学)を取得し、現在は武蔵野大学にてフランス語の非常勤講師をしています。主な研究領域は、フランス語圏文学、特にベルギーの現代文学です。The Five Booksでの講義を担当するのは、パトリック・モディアノ『1941年。パリの尋ね人』、アニー・エルノー『場所』に続き、三回目となります。


 マリーズ・コンデは、フランス語圏カリブ海世界出身の女性作家の中でおそらく最も知名度の高い小説家です。ノーベル賞が授与されなかったのは残念ですが、日本でもニュー・アカデミー文学賞を受賞した際に話題となったため、ご存じの方も多いのではないでしょうか。コンデの作品の魅力は、やはり植民地支配や奴隷制度といった過去の暗い側面をしばしばテーマにしているにもかかわらず、どこか常にユーモラスで、読者の笑いを誘う独特な語り口かと思います。そのことは、『心は泣いたり笑ったり』の読書を通じて、みなさまも感じられるはずです。


 今回の講義では、自伝的作品である『心は泣いたり笑ったり』のみを読むことになりますが、よりフィクションの要素が強いコンデの他作品についても、授業の中で紹介していきたいと考えています。また、適宜フランス語の原文に言及しながら解説しますので、フランス語に興味をお持ちの方のご参加も歓迎いたします。


 みなさまのご参加を心よりお待ちしております。

参加にあたってのご案内事項
  1. 各講義は、録画のうえ参加者へ講義後半日後に共有いたしますので、一部講義にご参加が難しい場合もご参加をいただけます。
  2. 録画動画は、講義終了後もご覧いただけます。各講義の録画視聴期間は、本ページ上部に記載しています。
  3. 書籍は、参加者各自でご用意ください。
  4. 講義では、受講者の方に質問や受講者同士の対話を強要することはありません。講義中のご質問は、Zoomのチャットまたは音声で行うことができます。
  5. 参加申込期限は初回講義開講時間までとなります。
  6. 開講3日前20:00の時点で最小決行人数に達していなかった場合は、本講義を中止させていただくことがございます。その場合参加登録をされた皆様へご返金させていただきます。
  7. 開講1週間前に、参加者にはzoomとslackのURLをご共有いたします。それ以降は講義参加へのキャンセルはできませんので、ご了承願います。
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